コメント

三ツ矢雄二
(声優/マルチクリエイター)

年を取るという事は、あらゆる物を剥ぎ取られるという事なのか?それとも経験という装飾に彩られていくものなのか?家族を持つという事は、孤独から逃れる手段なのか?それとも、より孤独を知る事なのか?人生に於いて、人は絶えず一人だという事を自認しなければならない。だからこそ、他の人に寄り添いたいのだ。生きるという事、老いるという事、ゲイであるという事を訴えかけてくれる、力に満ちた映画である。

ロバート キャンベル
(日本文学研究者)

煮ても焼いても食えない我がまま放題な老人作家と、彼が愛した若き男娼。究極の美醜対ケツだっ!悪ふざけてそうも言いたくなる設定ではあるけれど、彼らの結びつきは過去につながり、自己との葛藤、和解、やがて熾烈な生死をめぐる大きな物語に発展していきます。

リアル過ぎて目を瞑りたくなる瞬間と、心を静かにさせる美しい風景が幾重にも重なる、不思議と綺麗な「人間」を描いてみせます。

北丸雄二
(ジャーナリスト/作家)

ノンシャランとしたレオくんの眼差しに映る自身の過去をヤマさんが覗いている。水死もできなかった老いたナルシスが自身の過去を受け入れるには二つの方法しかない。露悪と慨嘆。けれどレオくんが三つ目の方法を教えてくれる。それは時代のさりげなく新しい風だ。老ナルキソスは、そのとき初めて本当の自分を愛することができるようになる。この映画は、私たちにもまた自分を愛する方法を示してくれる。

もちぎ
(作家)

大塚隆史
(バー・タックスノット店主/造形作家)

長い間日本のゲイを描いた映画を見続けてきましたが、『老ナルキソス』は面白かっただけでなく、見た後にザラっとしたイラつきを感じないで済んだ初めての日本映画作品でした。これは75歳のゲイである僕にとって、どれだけ待ち望んだことでしょう。やはり当事者性のある目線で作品が作られることは重要だと実感しました。

日出郎
(タレント/本作出演)

LGBT当事者も高齢化が進む昨今。私も還暦手前に、この問題作で演じてみて歳の重ね方のヒントになりました。加齢と共に拗らせたナルシストの主人公、山崎。こんなにも我儘な年寄りがクィア映画のど真ん中に出てくるのも珍しいのではないでしょうか。山崎は絵本作家としても男性としてもまだまだ諦めていない。それ故に同世代とも相入れなかったりする。

私の演じるシノブはそんな山崎と堅気の世界やレオとの世代間のギャップをなんとか橋渡しをしたいと思ってるバーの店主。

ロードムービーらしい美しい色合いの映像もお楽しみ頂ければと思います。

小倉東/DQ マーガレット

2017年の短編から5年もの時間を経て、『老ナルキソス』が全長版として生まれ変わった。短編にはなかったエピソードが加えられ、ホモからゲイ、そしてLGBTへ、50年にもおよぶ時間の流れと歴史が写し込まれた。厚みと奥行きも加わった。東海林毅監督の最高傑作だ!

シモーヌ深雪/Simone Fukayuki
(シャンソン歌手/ドラァグクイーン)

「ゲイが抱える今時の社会問題」と「ゲイならではのツボを押さえた耽美」が、絶妙な匙加減で絡み合う異色の本作。時にユーモラスに、時にシニカルに、物語の随所で問いただされる「愛のかたち」。正解もなく不正解もない曖昧なそのテーマは、古代から人と人との関係に於いて、最も深い核をなす部分に据え置かれた難題である。自由を軸足に取るのか、はたまた拘束を軸足として取るのか。自分を大切にするのか、相手への思いやりを優先するのか。古今東西の様々なジャンルの表現者が投げ掛けてきたこの問いの1ページに、今新たな章が加わったことをとりあえずは喜びたいと思う。浜辺の小屋の妖しく幻惑的な艶景は、個人の趣味も相まって、特筆すべき名シーンだと思った。

Kaya
(ソロシンガー)

葛藤と愛憎、スクリーンいっぱいに広がるリアルな感情と、細やかで艶やかな心理描写に息を呑む。リフレインする水底に沈んでいくナルキソス描写が、心が静かに死に絶えていくようで、とても痛々しく、そしてたまらなく美しくて。

過去との対峙において、破壊からの創造ではなく、痛みも傷も共に抱きしめて生きていく、そんな結末に心震えました。

また、感情と欲情に身を任せ自らを解放する回顧シーンも非常に印象的でございました。一夜が永遠。一瞬が永遠。弾けるような生命の息吹を繰り返して刻み込んで生きていく。人生はその繰り返しだと、わたくしは思います。

ねばつく夜を具現化したような、蠱惑的なシャンソンライブシーンも効果的。

【自らとの対峙】は性別も年齢も越える一生涯のテーマでありましょう。

セクシャリティに関係なく自己愛と自己否定に揺れるすべての方に観ていただきたい作品です。

若林佑真
(トランスジェンダー俳優/舞台プロデューサー)

あらすじを見た時、自分に共感できるところは一つも無いのではないかと思っていましたが(笑)、実際はとても普遍的で、気付けば主人公と自分自身と重ね合わせて観ていました。

ゲイでナルシストの老絵本作家という、一見マニアックな主人公から、こんなにも共感性のある作品を生み出す東海林監督...。
面白い!

KANE and KOTFE(YouTuber)

僕たちが経験してきた景色が、映像の彼方此方に散りばめられていました。また、パートナーシップ宣誓制度や里親、養子縁組に対する希望や葛藤等、日本に住むゲイカップルが直面しがちな現状を描いた作品は、おそらく日本映画で初ではないでしょうか。僕たちの人生と共感できる作品と出会えたことをシンプルに嬉しく思います。

青山夏樹(緊縛師/女王様)

老ナルキソスはヒリヒリと生々しい一人のマゾヒストのストーリー。自分が触れて来た Mたちと重なって切なくなりました。